自分の上司や取引先から次のようなことを言われた経験はありますか?
- あの材料なら市販性がいいから安くできますよね
- その材料は絶対高いからやめろ
- この部品にこんな材料使ったらダメだろ!
と思う気持ち、とてもよくわかります。
大学でも機械系の学科に属してメーカー設計職数年の私でも未だにこのような場面はあり、今後もモノづくりに携わる限りは一生向き合わなければならない課題でもあると考えています。
この課題は数えきれないほど存在する材料の数だけあるように感じ、かつ非常に難解に見えますが、やさしく紐解いてくれる本をこの記事で紹介していきます。
普遍的なことが網羅的に、かつわかりやすく書かれています。
西村 仁 さん著 ”加工材料の知識がやさしくわかる本” です。
この本があなたの困りごとのここに効きます
- 鉄やプラスチックのようなよく知られている材料の性質・コスト感・扱い方を理解できる
- 製造業でもよく使うような材料そのものについても実務レベルまで理解できる
- 製造業界で常識とされている材料の話に対処できるようになる
本書はタイトル通り、かなりやさしいところから始まります。
そのため文系/理系・営業/設計・学生/会社員問わず理解できるように、はじめは材料の話だけではなく、専門用語や単位、材料力学の話についても書かれています。
ただそのすべてが材料について考えるときにこのように使う、ということまで記載されているため、材料そのものの話だけでなくとも実務にかなり効いてきます。
また私たちの身の回りにあふれている材料から製造業で使うような特定の材料まで網羅されており、周りの人が何を言っているのかわからないという人はこの本を熟読するだけで世界が変わったように理解できるようになります。
材料ごとのおおまかな傾向をつかむことができるので、メーカーとのやりとりや自分からコストダウンの提案も可能になるくらい成長させてくれるような本です。
この本でわかる内容①材料について
この本が網羅している材料は大きく次の6種類です。
- 鉄鋼(炭素鋼、合金鋼、鋳鉄)
- アルミ+アルミ合金
- 銅+銅合金
- チタンやマグネシウムとその合金
- プラスチック(汎用~エンジニアリングプラスチック、ベークライト)
- セラミックス、ニューセラミックス
金属から非金属まで広い範囲が扱われていることがわかります。
各材料毎に、特定の材料についての知識まで深堀されているため製造業界の方でも自分が直面している材料に関する困りごとについても書いてあるかもしれません。
さらに材料選定する上で欠かせない紛らわしい専門用語(硬さ・強度・剛性)の明確な定義や、材料力学の話もかなりわかりやすく説明されており、それぞれ業務ではこのように使うという説明が徹底的にされています。
この本でわかる内容②熱処理について
金属には熱処理という性質を変化させる手段があり、切っても切り離せない関係となっています。
この熱処理についてもかなりわかりやすく記載されています。
通常熱処理の話は「各工程はこんな感じですよ」と書かれていることが多いですが、本書では「この性質を得るためにはこんな工程が必要ですよ」と書かれています。
つまり、「自分たちが欲しい性質を得るにはこんな処理が必要になるのか」と理解できるように、私たちの立場になって表現されているので他の参考書よりも腑に落ちやすく感じます。
ただでさえ数多くある材料に、わかりにくい熱処理がかけ合わさることで難解な学問となってしまっていますが、根本が理解できれば見た目ほど複雑ではなくなり、同じカテゴリの材料にも応用もできるようになります。
この本でわかる内容③材料の選び方やどう対処すべきか
- この性質を求める場合は材料A
- 代替品として選ぶ場合は材料B
というように、自分が材料に求める性質毎に材料の選び方を示してくれています。
その選び方も具体的すぎず、あくまで方針を示していますので他の材料も選択肢には入ってきます。
そのうえで、さらに自分が求める条件毎の判断基準を示してくれていますので感覚的にではなく、理論的に材料選定を行うことができるようになります。
また材料の選び方だけではなく、毎回こんなことしてられないよ!という場合の対処法まで書いてくれています。
この本に書かれていないこと①
”加工材料の知識がやさしくわかる本”ですので、理屈っぽいところの説明は省かれています。
例えば結晶構造のような、材料の根本的な知識については他の本で学ぶ方がよいでしょう。
機械学会の”機械材料学”は私が大学時代に教科書として買わされましたが、こちらはかなり理論的に材料の話がされています。
材料について、より根本的な知識を求める方はこちらがおすすめです。
この本に書かれていないこと②
網羅的であるが故に各材料の欠点の記載は少なめです。
あらゆる材料には長所もありますがもちろん短所もあります。
例えば鋳鉄なんかは複雑な形状でも製作可能ですが、複雑すぎたりサイズが大きすぎたりした場合には鋳造欠陥が発生しやすくなりますがそこまでの記述はないように感じます。
ただ各材料の欠点はそれぞれの材料を使用することになった場合に上司や相手方のメーカーが教えてくれることもありますので最終的には関係者と話し合って決めることが重要になってきます。
結論:材料の普遍的な知識に少しでも自身がなければ買い
この本は材料の本として売りに出されていますが、正確に言うと”製造業界で働く場合に必ず直面する材料に関する課題の解決方法マニュアル本”です。
まだ自分が体験していない場合でも、製造業界に関する仕事をしていればこの本で読んだ内容の場面が出てくる可能性は高いです。
そんな時に解決方針まで示してくれる本書を私は買うことをおすすめします。
特に、製造業界に関わっている方や今後関わるであろう方は一度読んでみて損をすることはない可能性が高いです。
普通の読み物としても秀逸で、辞書的にも使うことができ価格は2千円ちょっとでこれだけの情報が手に入るなんてかなりお得です。
この業界の専門書は終始理屈っぽい説明はしてくれるのですが、「結局自分が直面している問題への対処をどうすればよいかよくわからない」となることが多いです。
この本は「まず実務でこのような問題が起こることがあるからこの説明をしています」と徹底して
課題→説明の構造で書かれているため共感しながら読むことができ、理解もしやすく問題解決につながりやすいです。
またコラムや付録もかなり便利です。
こういった機械系の本の付録はたいてい「材料毎の縦弾性係数書いとけ」みたいな風潮があるのですが、この本は市販材の標準寸法や加工性とは何ぞや、みたいなことまでわかりやすく書いてあります。
付録まで実務ベースで考えられていて著者の方がどれだけ親身になってくれて書かれたのか伝わってきてもはやありがたみを感じました。
西村先生、本当にありがとうございます。