機械設計をしていて加工メーカーや現場から次のようなことを言われたことはありませんか?
- 「こんなもの作れないよ!」
- 「とにかく作りにくい」
- 「もっとコストダウンできる図面を出してくれ!」
このようなことを言われて悩んでいる方におすすめしたい本を今回はご紹介します。
國井良昌さん著の”ついてきなぁ!加工知識と設計見積り力で「即戦力」”です。
内容の簡単な紹介
本書は公差・板金加工・樹脂加工・切削加工についての簡単な説明と、
- コストダウンの検討方法
- 新たに作る部品のコスト積算方法
- コスト積算方法を使った演習問題
といった機械設計者がコストについて考える方法や実務ですぐに使えるような内容で構成されています。
また本書では対象部品が絞られており、月100~100000台生産を前提として各項目が書かれているため、少量多品種/超大量生産品には適していません。
ただ基本的な考え方はどのような部品にも適用できるので、読んでみて使えそうなところをピックアップする使い方がおすすめです。
私は板金や樹脂はほぼ使わないため、軽く読んだだけで加工コストのところをメインに読み込みました。
対象読者としては設計初心者向けとなっているため、中堅の方やベテランの方には物足りないかもしれませんが、初歩のおさらいや基礎的な知識のヌケ確認に使うこともできる内容となっています。
次から設計者がよく感じる悩みと、それに対して本書がどのように回答しているのかを書いていきます。
設計初心者向けに100~10万個/月生産部品を対象に加工法やコスト積算方法がまとめられた本
悩み解消ポイント①モノを安く作るには設計はどうすればよい?
設計者が参考図面をもとに今回の仕様に合わせて修正した新しい図面を見積もりに出したら、参考図面当時よりも大きく値上がりすることがよくあります。
よくある原因としては、モノを作る過程を考えられていない図面になっているためです。
設計者は業務上加工の都合や作り方を知らない、または知る機会が少ないことが大半です。
会社がモノの製造過程をまとめた資料を所有していればいいのですが、そのような資料がきちんと整備されていて、設計者も読めるようにしっかりと仕組化している会社は少数派でしょう。
そして作り方を知らない設計者からしたら
参考図面の部品は安く作ることができているのに、似た形状のこの図面ではなぜそんなにコストが上がるんだ!
と言いたくなります。
このような悩みに対してこの本を読んでわかったことは「加工メーカーの都合もあるから」です。
多種多様な加工メーカーが存在しており、それぞれの会社で備えている工具や加工機械が異なっていれば作りやすい形状も変わってきます。
一方で、どんな加工メーカーにも共通の規則のようなものがあり、それを抑えるだけでも「モノを作れない」という事態は避けられ、さらにコストダウンまで狙うことができます。
この本では加工メーカーで共通する考え方や、これさえ押さえておけばコストダウンもできる即戦力級の機械設計者になれるといった内容を学ぶことができます。
本書で書かれている内容を知っておくだけでも、加工メーカーとの打ち合わせで話についていけないといったことはかなり減ると思います。
また内容としては加工の知識は最低限にとどめています。その上で、
- どういった形状が加工コストアップにつながるのか?
- どうすれば加工メーカーからコメントが付かずにスムーズに図面が流れていくのか?
といった、”設計者は部品形状をどうすべきか”、というポイントにフォーカスされています。
また本書はそれなりに量産する部品が対象と書かれていましたが、私が所属している重工業界では1品しか作らないような特注品の製造でも通ずる加工規則が書かれていました。
自身の製品が本書のターゲットでないから読まないというのは少々もったいないですので、読んでみて使えそうなところは拾い読みすることをおすすめします。
設計者が図面上でどのような形状にすれば安く作ることができるか知ることができる
悩み解消ポイント②結局、いくらコストダウンできる?
どういった形状がコストダウンにつながるかを知ることも重要ですが、実際にいくらコストを下げることができるのか算出できなければ加工メーカーとの価格交渉で有効打を打つことはできません。
本書では各コストダウン方法ごとにコストを算出できる公式も提示されているためすぐにコスト算出することができます。
また今まで発注実績がない新たな部品のコスト算出についても書かれているため、おおよそのコスト積算をカバーすることができる内容になっています。
購買部署のような精確なコスト算出を期待されている方には少々物足りないかもしれませんが、設計者が部品のコストを算出するときには、基本的には桁数とせいぜい上から二桁の金額が合っていれば十分です。
本書の公式で算出したコストは桁数と上二桁くらいは、実際の見積もりとおおよそ一致してくるため設計者が使用する上では十分な内容となっています。
コスト算出の例題も記載されているため、コスト算出方法を学ぶ本としても有効な一冊となっています。
いくらコストダウンできるか算出できる公式を知ることができる
悩み解消ポイント③効果的なコストダウンを実践するには設計者はどうすればよい?
本書で学ぶことができるコストダウン方法はあくまでも一般的なことであり、自身の企業に適した、より効果的なコストダウン方法は設計者である自分が努力するしかありません。
各企業が関係を持っている加工メーカーは必ず教科書や参考書には載っていない独自の加工方法があります。
そのため、さらに突き詰めたコストダウンをするには設計者自ら加工メーカーに出向き、具体的な加工方法を聞く必要があると本書でも述べられています。
ただ何も知らない状態で伺ったところで、わからないところが多すぎて結局質問することができないと思います。私自身がそうでした。
そこで、本書で書かれている必要十分の加工知識が非常に役に立ちます。
本書の加工に関する知識を持って加工メーカーに足を運ぶと、加工方法に対して疑問を感じる場面が増えます。
何も知らない状態では、加工メーカーの方法を聞いても「なるほど」と頷くだけになりがちですが…
加工知識が身に付いた状態であれば、本書で書かれている内容とは異なる独自の加工をする場面で必ず気づくはずです。
その気づきにコストダウンの秘訣が隠れていることが多く、疑問をぶつけることで具体的なコストダウンの可能性を見つけ出すことができます。
そのためにも本書で加工に関する基礎的な知識を身に着け、さらに多くの加工メーカーを回ることで自身の加工の知識を深めていくことで、加工メーカーに自ら
こうしたらコストダウンにつながりませんか?
と提案することができるようになれば、まさに本書のテーマである”即戦力級”の機械設計者と言えるでしょう。
そこにたどり着くためにも一読する価値のある一冊になっています。
加工について考える上で必要な知識を本書で身に着けて、加工メーカーに出向いて実りのある協議をし、コストダウンにつなげる
この本の「ここも知りたかった」というところ
鋳物や鍛造といった、市販材ではなく、ある程度最終形状に近い素材の製作から加工までのコストダウンについても書いてほしかったと個人的には感じました。
特に鋳物は木型と呼ばれる、製作するためのモデルになるものが必要になり、それをどのくらい使いまわすかで、今後必要な金額が変わってきます。
そういった点では、コストへの影響は大きい製作方法であり、コストダウンを進めるうえで必ず壁となる製作方法です。
また樹脂も、重工製品でも使えるような非常に頑丈で高性能なエンジニアリングプラスチックも対象にしたコストダウンについても書いてあれば、樹脂の分野では隙がなくなるのではないでしょうか。
上述した内容をまとめて、レベル2のような本書がほしいと感じました。
さらに言えばボルトナット・軸受・軸などより具体的な部品を作る場合のコストダウンや積算方法についても知りたかったです。
まとめ
本書で設計者が加工について考えるときに悩むポイントに対して
- モノを安く作るにはどうすればいい?
- いくらコストダウンできるのか?
- 自分の会社に適したコストダウン方法は?
といった答えを書いてくれているため、読後は非常に有益だったと感じる方も多いのではないでしょうか。
また、本書では対象部品が絞られており、月100~100000台生産するようなものを想定していると書かれていますが、1図面で1品しか作らないこともある重工メーカーに勤めているイチ設計者である私が読んだ感想としては、「普通に自分の業務で役に立つこともある」でした。
というのも、コストダウンや見積もりについてだけでなく、設計時にも役に立つような知識も多数記載されています。
これは設計者でもある國井さんが設計者目線で書いてくれているためと思われます。
個人的に本書を読んで知ることができてよかったと感じたものは次の4点です。
- ロット生産の量産効果のコストへの影響の仕方
- 溶接や樹脂の材料が環境規制で選定が難しくなってきていること
- 樹脂形成での公差が出やすい箇所、出にくい箇所
- 加工機械ごとに出せる表面粗度一覧表
加工知識が浅い自分にとっては有益なことばかりでしたので、個人的にはおすすめしたい一冊です。
そもそも設計者がコストダウンについてそこまで考える必要があるの?
と感じている方もいるかもしれません。
それこそ部署ごとの役割がしっかり分かれているような企業であれば、加工メーカーとの交渉やコスト見積もりは設計者ではなく調達部のような部品メーカーに発注する部署が担うことになります。
そういった企業に勤めている方ならば自身でコスト積算する方法を知る必要ありませんが、
この形状変えたんだからこのくらいのコストダウン交渉はできると思うよ
と購買部に教えることができるようになると設計者で具体的なコストダウン具合を提示できる設計者はそこまで多くないため、購買部からの多大な信頼を得ることができます。
本来は購買部や価格交渉部隊がしっかりと交渉できるようになっている必要がある気もしますが、お互いにその方法を知っていれば、コストダウンに向けた有益な話し合いができるようになります。
設計者により書かれたコストダウン本だから設計者にこそおすすめしたい一冊です。